リビングひろしま2013年1月7日号(電子新聞)広島で約20万部発行の地域生活情報紙
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2013年1月7日(月)〈8〉低成長期の町づくりコンパクトシティー 編集部 2・19人、この数字は、1世帯当たりの平均人数です(広島県都市部、平成22年)。家族の人数が少なくなり、お互いを支え合うことが難しくなっています。特に広島市郊外の住宅団地では、問題が表面化しています。 森保 コミュニティーの問題は、都市近郊の住宅団地だけではなく北広島町など中山間地でも見られ、全国に共通した問題です。本来は、町づくりのマスタープランをよく描いて開発を進めるべきだったのですが、高度経済成長期は「都市は拡大するもの」という発想で開発が行われました。これは社会が求めてきた結果で、決して行政だけの責任ではありません。 今は低成長期です。こうした時代の都市計画は、誰も経験したことがありません。良い事例としては、コンパクトシティー化が進むドイツ、フランス、イギリスが参考になります。イギリスでは10万人規模の都市を何十年もかけてつくり上げています。 編集部 コンパクトシティーとは、どんな町ですか。 森保 将来を見据え、町を効率良くまとめようという発想です。有名なのは青森です。青森の冬は厳しいですから、広島のように郊外に住宅団地をつくると、道路の除雪、病院・学校などの公共施設への移動、食料の輸送などが大変。居住地を都市内部にし、都市をコンパクトにしようというものです。こうした動きが出はじめました。特にコンパクトシティーは、島しょ部の集落をモデルに検討すると良いと考えています。町づくりに女性のチカラを 編集部 住民自らが、積極的に町づくりに関わるべきですが、一方で地域共同体の意識がだんだん薄れています。 森保 コミュニティーの問題を解決するには〝女性のチカラ〞が期待できます。多くの女性は、町内会活動や子育てを通して、地域コミュニティーと深く関わっています。そうした視点での意見は参考とすべきです。 次に、都市近郊の住宅地には、団塊世代や、定年退職者が多いものです。私は、そうした人たちを、〝人財〞と呼び、地域の宝、財産だと思っています。パソコンや簿記ができる人、段取りが組める人など、能力を持っている人たちを発掘し、町づくりに巻き込んでいくべきです。 編集部 最近は「町づくりに住民の声を」と言われますが… 森保 「泡立てることがコミュニティーだ。それが要だ」と、ある社会学者が言っています。私もそのように考えます。コミュニティーとは、単なる地域社会のことを指すのではなく、地域の中で〝何かが共同して動いている〞ということなのです。 編集部 泡は、時間と共に消滅します。消滅させないためにどうしたらいいですか。 森保 「泡立てる」ということは、終始シャボン液をかき混ぜるようなもの。継続しなくてはなりません。そこで、泡立てる仕組みが必要です。意見や知恵を出し合う場や、住民の意見を直接聞くシステムが必要です。また、企画・立案をする〝泡立て人〞も大切です。女性や、定年退職者、団塊世代の方々などの力を借りたいですね。 編集部 「泡」の内容は地域によって異なると思いますが… 森保 地域によって町づくりの関心ごとは違います。例えば、川や山沿いの地域では自主防災が、また駅周辺では防犯が上げられます。関心ごとが違っても、お互いで助け合う「共助」の考え方は共通です。それは、法律とか明文化された規則ではなくて「規範」。みんなで守っていこうというルール、それがなければ、まさしく「水泡に帰する」ことになります。〝通りの茶の間〞と柔らかい組織 編集部 コミュニティー活動を行っている組織はいろいろありますね。 森保 暮らしを良くするために活動している組織は大きく分けて、従来の地域住民参加型組織(町内会や自治会)と、「交流・コミュニケート重視型」です。どちらも公共性や公益性を持って活動していますが、私が期待するのは後者の方です。 編集部 先生は「通りの茶の間」ということを言われますが、どういうことですか。 森保 「通りの茶の間」というアイデアは、妻の発想なんです。自宅前の通り沿いに、高齢者がたくさん暮らしておられます。庭先や室内が開けられれば、そこへ高齢者が集まってくるので、日常の〝通りの茶の間〞だと。さらに妻は車を運転するので、高齢者が買い物や病院に行く時、乗せてあげたいと言っています。公助の視点で言えば、交通問題として対策を講じることになりますが、お互いが助け合う共助の考え方です。それは、何かやろうと思って手を挙げた人が、すぐに動き出せるような柔らかい組織。今の時代には必要です。 編集部 柔らかい組織について、もう少し教えてください。 森保 「通りの茶の間」のような有志の集まりでもOK。「やればおもしろい」「みんな喜んでくれることがうれしい」など、人の役に立つ喜びこそが活動の原動力。こうした純粋でクリアな発想というのは大事だと思います。柔らかい組織は強制ではありません。活動テーマがはっきりしているので個人の意思で参加でき、気持ちに張り合いも持てるでしょう。楽しみながら普段着で行うので長続きします。 編集部 先ほど「泡立て人」のことが出ましたが、町のリーダー以外に誰がいますか。 森保 行政や専門家とも協働して進めるべきでしょう。こうした人たちの中には、〝希人(まれびと)〞という人がいます。町で起こる困りごとに、大変なヒントや刺激を与えてくれる人です。希人の発言には素直に耳を傾けるべきです。ただし、全て実行することはありません。判断すればいいのです。 以上のことから、今後のコミュニティーのあり方を考える時期にきていると言えるでしょう。 高齢化が進み、〝お隣さん〞の結びつきも今まで以上に弱まって、お互いを支え合うことが難しくなり、暮らしにくさが社会問題となっています。そこで、これからのコミュニティー(地域共同体)のあり方について、広島工業大学の森保先生に解決のヒントについてお聞きしました。「NPO法人悠々自在」が空き家を借りて運営する、多世代交流スペース「ら・ふぃっとHOUSE」(佐伯区美鈴が丘)。写真は、「おしゃべり食堂」の様子自宅の庭を開放して行われたコーラス発表会。毎年5月に開催される「五月が丘まるごと展示会」は、団地内の集会所や自宅を利用したアート展で、芸術を楽しむ団地内の有志によって行われています(佐伯区五月が丘)のあり方を考えるプロフィル/森保洋之(もりやすひろし)さん広島工業大学環境学部教授。建築・都市計画、地域・集落計画を専門に、それらの再生計画も研究中。現在、広島市西部の住宅団地で暮らし、町内会長も経験泡立て続けることが大切広島工業大学教授 森保洋之先生に聞きました今年、「リビングひろしま」では、「これからのコミュニティーのあり方を考える」をテーマに、連載をスタート。地域づくりに取り組まれている企業や団体などから提言をいただき、魅力的な町づくりの一助となることを目指します。「リビングひろしま」では町づくりのヒントを取材した「地域の力」の連載をウエブで公開中。46エリアのアイデアをご覧ください。「リビングひろしま.com」にアクセスを

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