リビングひろしま2013年8月31日号(電子新聞)広島で約20万部発行の地域生活情報紙
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2013年8月31日(土)〈10〉 保存療法を続けても大きな改善が見られず、痛みやこわばりによって日常生活の支障が大きくなった場合には、手術を提案します。 膝・股関節のリウマチの場合、立ち上がりや歩行時の痛みに悩まれる方が多いです。肩や肘、手指の場合、財布から小銭がうまく取り出せない、タオルが絞れない、顔が洗えない、トイレでお尻が拭けないなど、さまざまな局面に不便が生じます。 関節リウマチは、一度発症すると長い付き合いになる病気です。患者さんご本人とご家族がしっかり医師と話し、病気を理解し、体の使い方を知ること、どのようなサポートが必要か知ることが大切になってきます。 膝や脚のつけ根などの関節が痛い、こわばったような感じがあり、動かせる範囲が狭くなった気が…。思い当たる人、それは「関節リウマチ」かもしれません。痛みや動かしにくさは、生活の質を大きく落とすもの。どんな病気か、また治療について、浜脇整形外科病院の島岡康則先生にお聞きしました。「関節リウマチ」の治療 原因の一つに考えられるのが、免疫に異常が起こる全身性疾患「関節リウマチ」。関節の滑膜に慢性的な炎症が起こり、関節が腫れて痛みます。軽度の場合も含め全国で300万人程度患者がいると考えられています。 進行すると軟骨や骨の破壊が進み関節の変形や機能障害が起こります。膝関節や股関節だけでなく、肩や腕、手首、手指などの関節でも発症。 発症が多いのは30代後半〜40歳代の女性。55歳以上の発症もあり、加齢により弱った関節に、免疫疾患が影響し痛みが出ることもあります。 基本的な治療は、症状に合わせた保存療法(投薬治療)。腫れや炎症を抑えるためには、「ステロイド」を使用し、痛みを改善する場合は「消炎鎮痛剤」を使います。 リウマチそのものの治療を行う場合は「抗リウマチ薬」。効き目は穏やかで、時間を掛けて治療していきます。息切れ、湿疹、蛋白(たんぱく)尿、肌荒れなどの副作用が伴います。より強力な効果を求めるケースは、生物が作るたんぱく質を基にした生物学的製剤も。こちらも副作用を考慮しながらの治療となります。 関節の痛みの原因は何ですか 「関節リウマチ」の治療にはどんなものがありますか どんな状態だと手術をすることになりますか 部位や症状の進行により異なります。手指の場合は手関節の形成術、滑膜の切除などがあります。膝・股・肘・肩の関節は人工関節置換術を行うことが多いです。軟骨や骨の破壊が進み変形した関節を削り、人工関節に置き替えるものです。 かつては15年程度で軟骨の代わりをする部分が磨耗し、入れ替える手術が必要でした。現在は耐久性が向上。膝関節の場合、使用状況にもよりますが30年はもつと考えられています。 手術はどんなものですか まず、手術をする前に、患者さんがもともと持っている疾患を考慮して内科的な診断を行い、必要があれば治療も行います。入院は多くの場合、手術の前日から。入院期間はリハビリも含め4週間程度です。手術時間は症状の進行状況や手術の方法によりますが、膝が60〜90分程度、股関節は60〜70分程度、肘は120分、肩は40分程度です。 リハビリは手術の翌日から。筋力を落とさない、むくみを作らないためにも、疼(とう)痛のない範囲で始めます。歩行や、関節の曲げ伸ばしの練習、日常動作の訓練などを行います。 手術の流れを教えてください 筋肉を極力切らず、分けるように皮膚を開き人工関節を設置する「MIS(最少侵襲手術)」という手術です。皮膚を切る部分も少なくて済むため、傷が小さくなります。「傷は少しでも小さいほういい」という患者さんは多く、喜ばれています。 筋肉が傷つかないため、回復が早いのもメリット。縫合するのもほとんど皮膚だけなので痛みも少なく、リハビリもスムーズ、術前と同じ生活に早く戻れます。早い人は10日から2週間程度で退院できるため、働いている人や長期間家を留守にできない人も安心して手術を受けられます。 小さい傷で済む手術があるそうですが… 術後の生活で大切なことの一つとして、筋力低下の防止があります。それには歩くのが一番有効。痛いからといって、家でジッとしていると筋力が衰えてしまいます。また、骨が萎縮すると人工関節が緩むことも。歩くのはその防止にも効果的なので、ぜひ継続を。 スポーツはゴルフ、水泳、軽いエアロビクスなど、軽いものなら大丈夫。スキーやバスケットボール、ロッククライミングなど、飛んだり跳ねたりする、衝突や転倒の恐れがあるような激しいものは控えてください。 術後、自分で続けられるリハビリはありますか 一番気をつけてもらいたいのは感染症。人工関節を入れた部分に細菌が進入し、炎症を起こします。悪化すると「再手術」が必要なことも。手術をした直後はもちろん、何十年経っても注意するべき事柄です。 予防法としては、日頃の感染対策が重要。「けがをしたら小さな傷でもしっかり消毒する」「体を清潔にする」「歯磨きをし口腔環境を整える」。当たり前のようですが、心掛けの積み重ねが体を守ります。 また、「手を少し切ったけど直りが遅い」「微熱(37・5度程度)が続く」など、少しでも気になることがあれば、医師に相談してください。初期の段階なら抗生物質の投与などで対応できます。「痛い」「違和感」、その裏に〝関節リウマチ〞の可能性耐久性が向上した人工関節 小さな傷で回復が早い「最少侵襲手術」とは膝の骨の代わりになる金属部分はコバルトクロム、チタンなどでできています。軟骨の代わりに入るのは超高分子ポリエチレン。金属と接する動きを続けても長持ちします膝の人工関節の一例〝当たり前の暮らし〞の喜びを、もう一度筋力アップ+感染症に注意島岡先生から関節の痛みに悩む人へ 「ハイキングに行きたい」「旅行がしたい」「自由に買い物に行きたい」「子育てをするのに、痛いなんて言っていられない」。そんな風に希望がある人、生活に理想がある人は、手術の痛みやリハビリを乗り越える力を持っています。医師による治療と手術はそのサポート役。向上心と心掛けが何よりの〝薬〟になります。悲観することなく、前向きな気持ちで治療に臨んでいただきたいです。小皮切従来の手術方法による傷口とMISによる手術痕従来の皮切手術後手術前▶▶▶▶股関節の人工関節置換術 生活の中で気を付けることは?最新医療Q&A15~20cm7~9cm大阪大学医学部卒。米国テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センターで関節リウマチの滑膜及び骨髄中の間葉系細胞とB細胞について研究。行岡病院副院長などを経て、平成24年に浜脇整形外科病院副院長に就任骨関節包関節腔こう滑膜炎症を起こした滑膜免疫細胞軟骨正常な膝関節関節リウマチを発症した膝関節滑膜は関節の内側にあるとても薄い膜で、関節組織を内側からくるんでいます滑膜が炎症を起こすと、薄い滑膜は徐々に厚く腫れてきます軟骨が消失すると、骨と骨がぶつかり、さらに骨破壊が進んでいきます滑膜が肥厚してくると、関節の中の軟骨や骨が破壊され、関節が変形していきます浜脇整形外科病院 副院長島岡康則先生

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