子育て親育ち リビングひろしま(電子新聞)広島で約20万部発行の地域生活情報紙
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子育て親育ち〈14〉『vol.13』(「リビングひろしま」2012年2月11日号12面掲載)編集部ひきこもりとは、どのような状態のことですか。杉野基本的には、社会との交流を6カ月以上にわたって持てていない状態を指します。齋藤小学校中学年から不登校で、そのままひきこもりに移行して20年というケースもあります。最近は、一度社会に出てからリストラにあったり、職場でストレスが強くなってひきこもるという例も増えています。杉野内閣府が発表した数字だと、広い意味でのひきこもりは70万人。最近の傾向として、年齢が高くなり、長期化しています。齋藤親の年金で一緒に生活している方も多いので、保護者がもっと年をとった時が心配です。編集部ひきこもりの方がいる家庭は、どういう状態なのでしょうか。齋藤ひきこもりの初期と長期とでは、状況が全然違いますが、例えば、5年も自分の部屋だけで生活していて、両親が子どもの姿すら見たことがないというようなケースがあります。この場合、社会と家庭の両方でひきこもっているわけです。食事はみんなが寝静まってから、台所に行って作って食べる。昼と夜が逆転しています。親も余計なトラブルは避けたいので、あまり関わらないようにしているうちに、時間がたってしまいます。編集部ひきこもりが長期化していくには段階があるのでしょうか。杉野ひきこもりの始まりは、誰もがあるように、気分が落ち込んだり、両親にいろいろなことを訴えてみたりという①準備段階。次に②開始段階に入ると、時にはかなり暴力的になり、いろいろな葛藤が表面化してきます。③ひきこもり段階までくると、回避と退行が前景に出て、葛藤は刺激されなければ目立たなくなります。そして④社会との再会段階では、試行錯誤しながら社会との接触が始まります。編集部ひきこもりの原因が分かれば、対応策もあると思うのですが。杉野支援者側の分類でいえば、①統合失調症などを中心とした精神疾患が主因のもの、②発達障害が原因となっているもの、③精神疾患や発達障害ではないけれどひきこもりの状態に至っているものの3つ。①であれば医療機関、②と③であれば、専門機関や私たちのような民間団体が主に支援しています。齋藤原因を特定することは非常に難しいですし、原因を取り除けばひきこもりが変わるというものではありません。ひきこもりの状態になると、もともとその家庭で持っていたゆがみが表面化することが多いようです。その問題点を変えなければ、状況を変えることはできません。ひきこもりとは、自分を守るという人間が本来持っている行動で、誰にでも、どの家庭にでも起こりうるものです。編集部次に「子どもをひきこもりにさせない子育て」について考えていきましょう。齋藤そもそも、今の〝ひきこもりにさせない〞という考え方が問題です。親の価値観の押しつけであったり、親がこうしたいと誘導することが問題です。「勝ち組、負け組」と言いますが、「うちの子だけは絶対に勝ち組にさせたい」という親のある種のエゴが思い通りにならなかった時、親子でコミュニケーションがとれなくなり、結果的にひきこもるというケースもあります。杉野親だけではなく、社会の理解も必要です。心や体が社会に復帰できる状態に回復していても、履歴書に空白期間があるがために採用されず、再びひきこもるということもあります。齋藤ひきこもりが長期化してくると、親子で話し合うことができない状態が多いです。資料(左の囲み)ように、〝負のスパイラル〞に陥ります。ひきこもりの年数が長くなると、本人にとってストレスになりますが、そこで諦めないことが親も子も大事です。編集部長期化する前に準備期間があるということでしたが、その段階で親としては何ができるのでしょうか。杉野子どもたちの変化を見逃さないこと。きちんと見守っておくことが大切です。編集部早く気が付くにはどうしたらいいの。齋藤普段から会話ができていれば、早く気が付くでしょう。子どもが「苦しい」と訴えかけたとき、親の価値観を押し付けず、まずは子どもの気持ちをしっかり聴くこと。心配し過ぎないよう、子どもの力を信じてあげること。きっと解決できると信じて接すれば、子どもは安心します。支援センターの活用を編集部不登校であれば学校が対応してくれますが、ひきこもりの場合は、親しかサポートできないですよね。齋藤問題を抱えたときの対応が大切。どのような支援があるか、親が知っておくといいです。杉野広島市ひきこもり相談支援センターでは、本人のみならず、親御さんからの相談も受け付けています。広島市在住の18歳以上の方が相談対象です。電話相談も行っておりますが、基本的には電話で予約をいただいて、来所・面談を行います。まずは電話をしてください。最初は匿名でも結構です。広島市以外にお住みの方は、まずは最寄りの保健所へ。県の施設としては、県立総合精神保険福祉センターが安芸郡坂町にあります。編集部民間団体でもいろいろとサポートされていますが、例えばCROSSではどのような活動をされていますか。齋藤居場所づくりとしてフリースペースの運営、相談や訪問を行っています。居住地や年齢に関係なくサポートしています。編集部社会への復帰は、何がきっかけとなるのでしょうか。齋藤ひきこもりの期間が長いからダメということはありません。10年ぐらいサポートしていて感じることは、「この人だったら一生懸命話を聞いてくれる。親身になって相談に乗ってくれる」と、信じられる人が一人でもできたとき、思いがけず変化が訪れます。その人が親の場合もあれば、支援センターの相談員の場合もあります。誰でも起こりうること長期化させない親子関係とは毎月1回、〝子育て親育ち〟座談会をユーストリームで同時放映していますLICO 子育て親育ち検索Vol.13▲NPO法人青少年交流・自立・支援センターCROSSの理事長を務める齋藤圭子さん(56歳)。一昨年に開設したCROSS ROADの作業所も運営しています〝ひきこもり〟を考える▲同センターの理事で相談員の杉野治彦さん(48歳)親の価値観を押し付けず、子どもを信じて悪循環の例1•早く解決させようとしてしまう長期化する〝負のスパイラル〟→「いつになったら…」「早く…」 ひきこもりの子どもを心配するあまり、家族がつい言ってしまう、やってしまうことがあります。言葉や行動にならなくても、心の中で以下のように考えていませんか。確認を…(東京都青少年・治安対策本部総合対策部青少年課「〝ひきこもり〟でお困りのご家族のために…」パンフレットより)•強制的に何かをさせようとしてしまう→支援機関に入所させる、病院に入院させる など•原因探しをしてしまう、育て方を悔やんでしまう→「あのとき、ああしていればよかった」「育て方を間違えた」•叱咤(しった)激励・叱責・罵倒してしまう→「がんばれ」「みっともない」「情けない」「家の恥だ」•他の人と比べてしまう→「普通は…」「他のみんなはちゃんと…」•本人の将来を悲観してしまう→「私たちがいなくなったら、この子はどうなるのだろう…」•自分たちの経験と比べてしまい、価値観を押 し付けてしまう→「自分たちはこうしてきた、だらかお前にもできる」•本人の同意なく、部屋に入ってしまう→「部屋の中で何をしているのだろう」•世間の目が気になり、隠してしまう→「恥ずかしくて、誰にも言えない」 (結果として、本人の存在を否定することにつながります)本人家族ひきこもりわかってもらえない焦り・不安叱咤激励・叱責・罵倒悪循環の例2本人家族暴力・支配お前のせい私のせい服従悪循環の例3本人家族何もしない何も考えたくない放っておくのがよい何もしない(図は近藤直司〈山梨県立精神保健福祉センター〉による)振り返りチェック表杉野このたび、ひきこもりについて、皆さんにご理解いただく機会を持てたことに感謝しています。私たちが心掛けているのは、とかく「就職できました」「復学できました」と、一見解決したかのように思えても、実は本人にとっては新たなスタートだということです。そこで〝支援終了〞ではなくて、以後も見守ることが重要だと思っています。この問題を家族だけの問題にとどめず、最寄りの専門機関へ相談に行かれることをお勧めします。齋藤今、子育て中のお母さんたちは、子どもたちに問題が起きることを恐れないでほしいです。もし問題が起きたとしたら、それはチャンスです。より深い親子関係、意味のある人生を生きるための大きなチャンスが与えられたと考えてください。また、不登校やひきこもりの問題を抱えている家族にとって、経験者にしか分からないことが多く、周囲の言葉にがっかりするかもしれません。子どもや自分を責めず、子どもの力を信じて、継続して相談出来るところを見つけてください。そして、今ひきこもっている方は、どうか諦めないで、生きることを考え、相談に来てください。あなたたちが、今の閉塞した日本を変えていく力になるはずです。専門家からのメッセージNPO法人青少年交流・自立・支援センターCROSSでは、10年以上前から、ひきこもりの方々の相談に乗り、社会参加や自立の手助け、また社会復帰への第一歩としての居場所やフリースペース、作業所の運営、そして、「広島市ひきこもり相談支援センター」の運営も行っています広島市ひきこもり相談支援センター(無料)☎082(942)3161開所日時 月・水・木・金・土(祝日もあり)9:00~18:00 広島市在住で18歳以上の方広島市西区楠木町1-8-112月1日に実施した座談会は、バルコムユーストリームスタジオ(西区大芝)の協力の下、ユーストリームを使って放映しました。そのときの様子は、ウェブサイト「LICOひろしま」の子育て親育ちコーナーでご覧いただけます。過去の座談会の動画や記事もあります親は、子どもが自分の力で生きていくことを目指して、日々子育てをしています。ところが近年、仕事や学校へ行かず、自宅にひきこもっている若者が増えています。そこで、NPO法人青少年交流・自立・支援センターCROSSのスタッフに、ひきこもりの実態やサポート体制、ひきこもりが長期化しないための方法などを伺いました。全国で70万人、高年齢化と長期化が問題に…2

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